40人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいま」
やはり今日も定番の挨拶。
博人は玄関で靴を脱いで上がり、まず母親の部屋に向かった。引っ越しの日は明日だったはず。業者も明日来るらしい。その事に関して話そうと、塔子の部屋の扉を開けると、
まず目に入ってきたのは、塔子の着替えシーンだった。
「……失礼」
後退り、扉を閉めながら博人は謝った。
「……いやん」
扉が閉まる瞬間、塔子がそう言ったのが聞こえた。
「ったく、あれで高校生の息子を持ってる身体だもんな」
息子である俺が言うのもなんだけど、と博人は未だに鳴り止まない心臓を手で押さえた。まだ脳裏には若々しい母の裸体(下着着用)が残っている。
張りのある肌、
ふくよかな胸、
起伏に富んだボディーライン、
極め付けはその端整な顔立ち。
どれをとってもとても37歳には見えない。
中学を卒業した時ぐらいから薄々感じてはいた。母さんは本当に母さんか、と。もしかして、お義母さんではないのか?そうも思ったが、それはDNAが証明している。間違いなく親子なのだ。
「着替え終わったよ~。なんかお話があった?」
がちゃりと扉を開け、塔子が顔を出す。その顔には無邪気な笑み。
(どうやったら40近くでもこうなるんだろうか……)
そんな母を見て、博人はどこか感じる部分もあるのだが、劣情の波は寄せては返すのだ。我慢すべきところはぐっと堪え、理性を頼る。そして、あとで「実の母親に欲情するなんて……俺は変態だぁっ!」と後悔しつつ、己に罰を与える(具体的には壁に頭を打ち付けて「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」)。
「明日の引っ越しについてなんだけど、どこに行くんだ?」
博人はまだそれを聞いていない。塔子は少し考えるそぶりを見せ、
「な・い・しょ」
あっけらかんと言い放った。大きく脱力するのを、博人は溜め息と共に感じ取った。
最初のコメントを投稿しよう!