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濃密な血臭が、イマヌエル・オルレイの嗅覚を奪っていた。
大理石の道は、血で染まり、いつ果てるとも知れぬ叫びが、聖地を汚していた。そうなのだ、と今になってようやくイマヌエルは、悟った。
これは、無益な争いでしかない。
血で、聖地を汚しているだけだ。
しかし、イマヌエルも戦場の狂乱に酔っていた。
先ほども、異教徒の娘を一人犯したばかりだ。
太身の剣を振るい、異教徒の兵士の首を斬った。
血飛沫がふきあがり、頭が鞠のように転がり、血の池に沈んで行った。
首から上が無くなった体が、躊躇うように倒れ込んだ。
娘が一人、犯されていた。それを無視して、道を進む。
目的は一つだった。
イマヌエルは、教皇から直接下された密命をうけている。
それは、ここの教会にあると言われていた。
悪魔の首、と呼ばれている。
教会を見つけた。
死体が折り重なるようにして転がる道を足早に進み、教会の扉の前に立った。
木製の扉を開き、まず盾をつきだした。
次いで、体を滑り込ませ、剣を室内に向けた。
誰も居ない。
ここだけ、別世界のようだ。
その別世界に、それはあった。
まるで、持ち帰ってくれ、とでもいうかのようにそれは鎮座している。
悪魔の首というからには巨大な獣の首かと思っていた。
長い歴史の中で、萎縮してしまったのか、世界を二つに裂き、未だ癒えない傷をこの世界に与えた悪魔の首は、昔見た狼のミイラそのものだった。
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