序章

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ラミナス歴478年。 サフィナ村は、ラミナス教国連邦の最北端に位置するガリア王国の西の外れにある。 王都ガリアスから、最も遠い村である。 ギーツ・ハイラルは、多少急いで村の小さな教会に向かっていた。 ラミナス教の聖職者は、聖都ファスに巡礼して、初めて認められる。 その際、聖職者達は遥か昔の天魔戦争の古戦場を通る必要があった。 その道中、聖職者を警護するのが、ギーツ達神殿騎士の役割だ。 神殿騎士、といえば聞こえは良いが、所詮は捨て駒だ。 異端が就くことの出来る職業など、たかが知れていた。 おまけに、修道中の聖職者ほど気位が高い人種はない。 気が滅入る仕事ではあったが、聖職者をファスに安全に届けさえすれば、聖堂騎士団に入団出来る可能性が高くなるのだ。 サフィナ村の教会は、ガリア王国で一番長い歴史を持っていた。 一説によれば、この大陸の大衆宗教であるラミナス教の教祖であるパヴィナは、この村でラミナスの神託を賜ったといわれている。 だが、ラミナスは天使である。 神ではない。 そこに、矛盾が生じるのだが、天魔戦争を描いた伝説では、ラミナスは突然神に格上げされている。 それに至る経過の部分だけが紛失している為、学者達はその真実探しに躍起だ。ファスの学者達には、太古の昔に紛失してしまった古文書を探すか、その部分を想像するかしか仕事がない。 教会が見えてきた。 顔馴染みの神父の隣で、緊張した面持ちでこちらを見ているのは、タフィー・ブレンだ。 生意気な性格で有名だった。 ブレン家といえばサフィナ村では知らぬ者が居ない名家である。 タフィーの兄は、現在聖地解放軍の騎士として、海を越えた大陸にある、ダーザスで戦っている。 父は、村で唯一の銀行を経営している。 母は、隣のサルヴィナ王国の学術都市ナルダの出身と聞いていた。 聖職者がファスに向かう一連の旅程は、聖巡と呼ばれていた。 普段は、重い鎧を着込むことを課せられている神殿騎士達もこの聖巡においては軽装を許される。 だから、ギーツは仲間達から昨晩贈られたばかりの鎖帷子を麻のチュニックの下に着込んでいる。 剣は細身で長い刀身だ。 背中には、短めの弓を背負っている。 袖口には、短剣も仕込んでおいた。 聖巡では、馬に乗ることが禁じられていた。
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