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周りは緑囲まれた森林地帯…。
地上で唯一生命が生き続ける最後の楽園―イオラル―。
イオラルではかつて存在していた時代…≪西暦≫で繁栄していた≪人類≫の遺産が少なからず生き残っていた。
この地の樹木は太く、そして高い。その為か木漏れ日一つ差し込まない。辺りは陽が昇り沈むまで常に等しく薄暗い。その上、陽が沈み夜となれば明色の判断さえ困難になるほどに辺りは漆黒の色を被る…。
でも人が暮らしを営む環境に些か問題があろうと、これぐらいは妥協を甘んじれる…
この地以外でその環境ですら…否。生きていける事さえ叶わないのだから…。
もう、ない…。
そう…地上世界に安息の地など…何処にもないのだから…。
「―お父さん…」
この地が楽園と呼ばれる由縁。それはイオラルの中心に天空をも貫く一本の大樹…そしてそれを囲うかのように敷き詰められた花畑。
大樹の根本のすぐ傍…苔に包まれこじんまりとした細長い石の柱が建っていた。それは墓にも見える。
「―お父さん…。私…行ってくるね」
墓と呼ぶにはあまりの質素な石の柱の前に佇む一人の少女…。にわかに目頭が熱くなったのを感じたのか、何かを振り払うかのように首を振った。
そして彼女は空を見上げた。
此処の空は色にして…ただ黒かった…。
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