第一章‐1“レイヴン家令嬢誘拐事件―すれ違い―”

2/9
前へ
/20ページ
次へ
▼ ミラルド大陸を一言で言い表わすなら、それは「ドーナッツ」だろう。 別段、「真ん中がない」と言うわけではない。人が住める土地がドーナッツ状であるというわけである。 それも、所々噛った跡がある食べかけのものだ。 中心にアルタ砂漠があり、それを囲むように西側にアムール山脈、東側にトラス山脈が連なる。 何(イズ)れも高く険しい山々なのだが、ドワーフが所々住むのみ――勿論、魔物もいれば動物もいるが人型の生物で言えば――である。 ドーナッツの内側、左斜め下にやや小さな噛った歯形が見られる。 そこは、タウロ森林と呼ばれる豊かな森林。 偏西風によって運ばれた湿気はアムール山脈に遮られ、大量の雨をタウロ森林にもたらす。 土に染み込んだ雨粒はやがて一つの奔流となって南西に流れる。 レギール川だ。 長々と下り下流に差し掛かる頃イリナ川との合流地点が見えてくる。 そこからまもなく、河口の左右に分かれる港街がローザス王国第三の都市、レギオンだ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加