0002 渋谷 サチ

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そう、この男。タキオの前だと無条件に緊張するんよ。 ただ、記憶や感情はあまり変わらない。言うことは聞くけど、好きじゃない。 むしろ相変わらずの嫌悪感がある。 「はは すげえ これ すげえ!」 タキオは説明書を一通り読み終わると、そう言いながらウチに近づく。 「お前 俺の奴隷なんだ!」 「はい たぶん」 ウチは訳分からないけど、とにかくうなずいた。タキオは布団の上に来ると、ウチに顔を近付けて言う。 「口開けろ」 ウチは黙ってアーンと口を開ける。 「はは お前が着けてたんだな」 タキオはウチの口の中に指を入れ、目で覗き込みながら上の歯の裏にある矯正器具を確認した。 「おぇ」 ウチがえずくと、タキオは「ははは」と笑いながらまたタバコを吸う。 普段だったら、ブチ切れて帰るし、怒りの感情もあるが、何も言えん。彼に不快な思いをさせてはいけんと、何か衝動みたいなものが働く。 「訳が分からないだろ」 「はい」 訳が分からん。 「ナントカサチだっけ?お前説明書読まなかったのか?」 渋谷じゃボケ。名字くらい覚ええや。 「はい」 「読まずにこんなもん口に入れたのか?」 「はい」 「お前 バカだな」 お前もな。  
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