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そこに助走をつけてすねを叩き付けたのだから堪(たま)らない。
溝の硬い鋭角に皮膚はごそっと、まるでピーラーで皮を剥かれた野菜のごとく捲り上げられ、その下の筋肉が剥き出しになってしまったのである。
太陽の光を浴び、てかてかと血に濡れる赤黒いそれは、スーパーの鮮魚売り場に並ぶ筋子にあまりにもよく似ていた。
樋山はすぐに病院に運ばれ、数十針を縫い、そして完治まで数ヶ月を要した。
見て見て~!
見舞いに行った時、抜糸を終えてすっかり元気になった樋山は、稲妻の形に刻まれた傷跡を見せてニコニコと笑った。
心配されていた後遺症は……無かった。
肉体的には。
樋山はそれ以来、ガリガリ君を食べない。
何だか見ただけで体がむずむずして落ち着かないのだという。
私はというと、それまで筋子が大好きだったのに、箸に取る度にどうしても樋山のすねから出ていたアレを連想してしまい、仕方なく、いくらを食べる事にした。
余談であるが、この翌年、樋山は風呂場で転び、入口の段差に左足のすねを打ち付けて再び筋子を出している。
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