侵入

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竹林に囲まれていたが実家の裏庭は陽当たりが良く、布団を干すには最高の場所だった。 そこには祖父手作りの物干し台があり、晴れた日には祖母が布団を干す。 祖父母は「羽毛布団は軽くて落ち着かない」と、昔ながらのガッチリした、割と重さのあるセンベイ布団を使っていた。 羽毛布団も持っていたのに、祖父母は「ネゴが出だり入ったりすっからぼふぼふしてさみがら」と言って、あえてぎっちりと綿が詰まって硬い方を選んでいたのだ。 しかし、湿気を吸った布団は結構な重さになり、背が低く非力な祖母にとってはかなりキツい作業になる。 ある時、布団を干し終えて腰を叩きながら「ふー、つかっちゃ」と額の汗を拭った祖母とでくわした祖父は、数日かけて傾斜のある土手のそばを選んで物干し台を作り、そこに竿を渡した。   土手の上から布団を降ろす恰好になるので、あまり労力を使わずに布団をかける事が出来る、という訳だ。   ぶっきらぼうで無愛想な祖父の、祖母に対するさり気ない優しさだった。
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