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うちのムードメーカー慎一が茜と話している。
「左海…茜」
真っ赤に俯きながら言う茜。
苗字…左海っていうのか。
「…楽器は何が好き?」
「ベースと…ギター」
「あ、ならオレとリョウじゃん。弾ける?」
「少し」
いつもより口数が少ない。
まさか、人見知り?
「オレ達、ボーカルがアキラ。ギターがオレ、ベースがリョウ、ドラムがワタルなんだけど、ギターが足りないんだ。募集中。茜ちゃんも誰か知り合いにいい奴がいたら教えてな?」
「……いるよ。春が、ギター弾ける」
は?ドラムだって言ってたよな?
「言うなよ!茜!」
「マジで!ちょっと、リョウ、なんだ!いい奴いるじゃん!」
それ以上いわないでくれ。
茜が…。
茜が…。
「弾いてみてよ。春」
ワタルまでが言う始末。
「な、弾いてみろよ」
悲しそうに笑うのやめないかな…。こいつのこの顔…見たくない!
もういいだろ!
「茜ちゃんも弾けるんだろ?茜ちゃんも弾いて見せてよ」
「ほぇ?」
慎一の言葉に一瞬、目が輝いた。
「………う……うん」
「でも、お前下手くそだしな」
春が言う。
茜がまた顔を強張らせた。
そんなこと言わなくてもいいのに。
また泣きそうだ。
一瞬だけなのに…。茜は消えていなくなりそうで怖い。
「…そんなことは言わなくてもいいと思う」
アキラが呟いた。
春が嘲笑う。
「だって、ホントの事だしな。な、茜」
言い過ぎだ。
皆がそう思ったのか、気まずい空気が流れた。
「まったくだ。きっと子供の方がうまく弾けるよ。だから、オレは弾かない」
なんでだろう。
なんで…悲しそうな顔で笑うんだよ。
その日。
オレの中から春が消え…茜が住み着いた。
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