標識

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次の日から、私は一哉の就職活動に付き合わされた。 『場所がわかんないから、マヤのケータイでナビしてよ。』 と言う。 私は、あまり疲れのとれていない体を起こし、ハローワークや面接に付き合った。 『すぐに見つかる』 どこがすぐなのか、気付いたら2ヶ月が経っていた。 その間、私のバイト代だいたい月10万円で二人は生活した。 もちろん、一哉の車のローンを払う余裕はない。 一哉は二人暮らし中のお姉さんに足りない分を借りていた。 一哉の姉はキャバクラで働いていて、8年付き合っている彼氏ともうすぐ結婚するそうだ。 だから、少しばかり余裕はあるようだが、一哉が情けなくてしょうがなかった。 いつものように一哉と仕事の面接に行き、うちへと戻っていた。 秋だからか18時でも辺りは薄暗くなっている。 ぼーっと外を眺めていると、 私の鼓動があの日を思い出したようにとくんと高鳴った。 私の目に飛び込んできた文字…それは 『松井』 だった。 ここの地名が松井と言うらしい。 たかが地名と名前が一致していただけ、松井さんとこの土地が、関係を持っているわけじゃないのはわかっている。 理屈じゃないんだ。 恋って頭でするものじゃない、心でするもの。 って言葉は本当だった。 信じていなかった訳じゃない。 今の瞬間実感した。 隣では一哉が運転を続けていた。 ごめんね、一哉。 私、やっぱり松井さんのこと好きみたい。 一哉よりも好きなの。 ていうか、私が好きなのは松井さん一人なんだ。 いきなり涙が出そうになり、私は運転している一哉の太ももに頭を置いて横になった。 『どうしたぁ?』 優しく問いかける一哉に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。 『ん~?眠くなった。』 そう答えるのが精一杯で、私は口を閉じた。 泣き終わるまでどうか家に着かないで下さい。 一哉に泣いている顔を見られたくない。 まだ知られたくない。 あなた以外に好きな人ができたこと。 ごめんなさい ごめんなさい 本当にごめんなさい。 一哉の足の上で寝たフリを続けた。
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