-第1章- 小さな魔法使い

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健太が急いで階段を登り切り、音と悲鳴の聞こえた4階にたどり着くと、そこには床に尻もちをついた少女と、高槻昇が大の字になって廊下の上にのびていた。 (なんでゴムの焼けたような臭いがするんだよ……ってそんなことより) 「大丈夫か……って、おま、春奈!」 「あ、健太くん」 高槻昇と衝突したかのように思われる華奢な少女は、大池健太のクラスメートの水無瀬春奈だ。 身長は健太よりやや低いくらい、髪は背中まで届くロングで、頭の両端をリボンで少しだけ結わえている。 「昇とぶつかったのか?」 「ううん、私はびっくりして転んだだけだよ。昇くんは私に気づいて避けようとしてくれたんだけど……」 昇の側には、大きく凹んだ掃除用具入れのロッカーがあった。 「……で、春奈を避けたんだけどバランス崩して、こいつに頭から突っ込んだって訳か。ご愁傷様……ってそんなことより、何で春奈がこんな時間まで廊下をふらついてるんだよ?」 「あ、うん。私ね、今日は始業式だから体育館に行かないといけないのに、朝はうっかりしてて教室まで行っちゃって……」 「春奈がうっかりしてるのはいつものー、って俺たちも忘れてたわ!」 健太は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて頭を抱えながら叫ぶが、春奈はひとり状況が呑み込めていないようだった。 「そうだったんだ! やったー、仲間だね!」 「仲間て……それはそうと、春奈? いつまでそんな格好してんだ?」 「?」 訝しげな表情を浮かべて、春奈は健太の顔を覗き込む。 「いや、あの、なんつーか……見えてんぞ」 「……あ」
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