-第1章- 小さな魔法使い

8/32
前へ
/688ページ
次へ
春奈は慌てて立ち上がると頬を紅潮させ、金魚のように口をぱくぱくさせながら膝丈よりすこし短いスカートの裾を引っ張る。 「もうっ! 気づいたなら早く教えてよー!」 「悪かった……とっ、とりあえず体育館で始業式なんだろう? いつまでもこんなところにいないで、早く行こうぜ!」 しどろもどろしながらも、健太は春奈の手をとって、体育館へ向かわせようとする。 「健太くん! まだ昇くんが……」 「昇はいつも夜中まで勉強してるからお疲れなんだ! 少しくらい寝かせてあげなさい!」 春奈は健太の手を振り払って昇に駆け寄ると、力一杯昇の肩を揺さぶり始めた。 「昇くん! 早く起きて! 始業式始まっちゃうよ!」 春奈が昇を揺さぶる度、昇の後頭部から金属とぶつかり合う痛々しい音が幾度も響く。 「ちょっ、後ろ! ロッカーあるロッカーある! 春奈、昇を永眠させる気かよ?」 「あ! ごごごごめんね!」 春奈が手を離すと、昇はよけいぐったりとした様子で床に伏してしまった。 「健太くん! 私、昇くんを保健室まで連れて行ってあげるから」 「いや! いい! そこに寝かせてやってくれ!実は昇は、究極の地べたリアンなんだ!」 「そうなの?」 「ああ! 地べたじゃないと昇はメシを食わない! 昼休み、昇はいつも地べたで弁当を食ってるだろ!?」 「でも私は見たこと……」 「なまじ頭が良すぎると、変わった性癖が開花するんだ! 昇、変わってるだろ?」 「そうかな?」 「そうだ! 俺の眼を見ろ!」 健太は春奈の肩を掴むと、暗示でもかけるかのように春奈の瞳を覗き込む。 「……うん! そんな気がしてきた」 「その上、昇は極度の床フェチだ! 床じゃないと昇は寝付けない! 床は昇の伴侶も同然!」 「そっか! わかった!」 (ふぅ、誤魔化せたな) 健太は春奈の扱いに慣れているのだろうか、半ば強引に春奈を納得させ、体育館へ向かおうとする。 「健太くん、待って! 一緒に」 春奈が健太の手を掴む。 「……え?」 「健太くんも走って転ばないように、私が掴んでおくね!」 「お、おぅ、さんきゅー……」 ふたりは階段を下り、2階の体育館へと急いだ。 「健太、水無瀬さん……俺は、変態なんかでは……がくっ」image=156526902.jpg
/688ページ

最初のコメントを投稿しよう!

513人が本棚に入れています
本棚に追加