-第1章- 小さな魔法使い

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吹奏楽部による演奏や、在校生によるパフォーマンス、新入生による学校生活の抱負の発表。 ややあって新入生の歓迎が終わると、明るい空気は一転する。 「それではこれより、平成20年度、第5回御桜高等学校始業式を開式致します」 御桜高校の校長がゆっくりとステージ脇の階段から上に上ると、どこぞからの贈呈であろう見事な松の盆栽の置かれた壇上にカンペを置き、大袈裟な咳払いと共に決まり文句から喋り始める。 「あー、本日はお日柄も良く……」 校長が語りはじめて2分が過ぎた頃、健太はこくこくと舟を漕ぎ始めた。 (ちっ、小中高と……いつになっても校長の呪文はよく効くぜ) 「おい、どうした? まだ始まったばかりだぞ?」 ロン毛が肩を揺するが、既に健太の意識は朦朧としていた。 「わりぃロン毛。俺、ちょっとだけ寝るわ。多分途中で起きるから、起立する時あったら起こしてくれ……じゃあ」 「じゃあ。じゃねーだろ! お前授業中にも寝てるんだからいい加減にしろよ? ……おい、聞いてるのか? おい!」 「ぐかー……」 「早っ! おい、健太! 健太!」 ロン毛の呼び掛けも虚しく、健太は昼寝という至福の時を過ごし始める。       「健太……健太……」 (ん、何だよロン毛。まだ寝かせてくれって……) 「私の声が……聞こえるのだろう?」 (今の声……誰だ?) 「ええい! 起きんかこのっ!」 「うわぁっ!」 健太が聞き覚えのない声に驚き体を起こすと、そこには―― 「……犬?」
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