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健太が目を覚まし辺りを見回すと、生徒や先生は愚か、健太の周囲には体育館も学校町も、空すら見当たらず、ただ真っ白な世界が果てしなく広がっているだけだった。
時間の感覚も分からない。
唯一、理解する事ができたのは、その空間にいるのは自分だけではなかったことである。
「……お前、誰?」
「見て分からんか。私は犬だ」
そう答えたのは、紛れもなく犬だった。
その姿は全身白い毛並みの雑種犬で、他に特徴があるとすればーー
「喋ってる。はは……夢だろ、夢に違いない! 夢だよなこれ、夢だ! よし、こういう時はほっぺたつねるんだよな! てい!」
何を思ったのか、健太は自分の頬を思いっきり抓ってみた。
「いてててて……てて……ん? あれ、痛くない」
「当たり前だ。これは夢の中だからな」
(あれ、そういう展開?)
気持ちを切り替え、健太は目の前の犬に向かって話しかける。
「おい、犬! 俺はお前みたいなやつなんか見たことないぞ? なに勝手に人様の夢の中に現れてやがる?」
犬は眉間に皺を寄せると、説教をするかのような口振りで健太に話し始めた。
「時間がない。一度しか言わないから、私の言うことをよく聴くのだぞ! 実はな……」
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