-第1章- 小さな魔法使い

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(健太、健太、起きろ!) 「んあ? ……ロン毛?」 鉛より重たく感じる自分の瞼を僅かに開け、健太はぼんやりと周りを見渡す。 (んげっ! みんな起立してる!) 「以上をもちまして、平成20年度、第5回始業式を終わります。礼」 無意識のうちに(と言っても毎年恒例のことだが)健太が惰眠を貪り始めると、気づいた時には始業式は終わりを告げていた。 ステージ脇の司会進行と思われる先生が、閉式の言葉を述べ終える。 全校生徒が礼をする中、ひとりだけ後から飛び上がって礼をした。 (何だったんだ今の夢……俺、誰かにおかしなことを吹き込まれて……あれ、よく思い出せない……) 式が終わって、生徒たちは各々いくつかのグループになって、教室へと散らばり始める。 「それじゃー、3の1も教室へ!」 青いジャージのよく似合う3年1組の担任、木下力が生徒たちを移動させる。 3年1組が移動する中、釈然としない表情で健太はその場に立ち尽くすが、見かねた広樹が健太の腕を引っ張り、強引に連れて行く。 「お前、集会の朝は今までパーフェクトで寝てきてんじゃねえの?」 「るせーな! んなわけ……かもしんねぇ」 健太は眠い目を擦り大きく伸びをしながら、的を得た感想を投げるロン毛に答えた。 「う~ん……まあほら、よく言うじゃん、春眠、暁を覚えず!  って」 「あのなぁ、そりゃ春の間は朝になってもなかなか起きてこないやつのことだぞ? お前みたいな万年ねぼすけには使わねーの」 「お前ら……昇といいロン毛といい、なんでそういうこと詳しいんだよ!?」 ボリボリと頭を掻きながら、広樹は反対の手で健太の頭を木魚のように叩きながら答える。 「ばかやろう、この俺を舐めんなよ? つくづく、お前みたいなやつがどうしてこの学校受かってんだか疑問に思うぜ」 「あっ、たっ、ちょっ、痛いっ、痛いっ」 涙目になる健太をからからと笑うロン毛。 と、急にその後ろから女子生徒がひとり、健太とロン毛の間からぬっと頭を出した。 「なーにぃ? ロン毛、気づいてなかったの?」 「うおおおおっ!?」
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