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不意に、ふたりは後ろから声を掛けられる。
「なんだ、まーこか。驚かしやがって」
「なんだとはご挨拶ね。それより今の話だけど……」
背後から近付いてきたのは、クラスメートの山田真。
男みたいな名前をしているが、ショートカットの似合う活発そうな女子生徒である。
「大池、春奈と同じ学校に進学したくて、ここの学校を受験したんだよねぇ~」
「ばっ、ばか! 何言って、そんな訳ねーだろ! 単に、家が近いからだって!」
ははあ、と納得した表情を浮かべるロン毛。
「成程な。確か、お前の家からだと、ここより隣町の古谷高校の方が近いんだよな。偏差値も大したことないし、健太のことだからてっきり古高行くと思ってたんだけど、そういう事かぁ」
「だから違うっつってんだろ! 俺はただ……」
「どしたの?」
「なぁあっ!」
声のした方を振り向くと、水無瀬春奈が自分の顔を覗き込むようにしてそこいるのにようやく気付く。
「春奈、いつからそこに?」
「え、うん、今」
ホッと胸を撫で下ろす健太。
そしてすぐに真をキッと睨みつけ――
「いねぇ」
「健太、あとでゲーセン。口止め料2クレな」
そう言い残し、ニタニタ笑いながら、そそくさとロン毛もいなくなる。
(あいつら……覚えてろよ!)
「どうかしたの?」
「あ、いや、なんでもない。なあ、春奈……」
「なに?」
「やっぱりいいや!」
健太は足早に春奈から距離をとってしまう。
(ダメだ、あいつの顔が直視できない……それに、この年で水玉模様なんて……って何考えてるんだ俺!!!)
「健太くーん!」
(きた! おいチャンスだぞ俺! 負けるな、俺!)
「どうした春――」
「教室通り過ぎてるよー!」
(これはかっこ悪いぞ、俺!)
すごすごと戻ってきた健太は、結局それ以上春奈と会話を交わすことなく教室へと入った。
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