-第1章- 小さな魔法使い

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「――という訳で、今日のホームルームは終了だ。春休みの宿題は明日の朝回収するからな。まさかとは思うが、大池! もう終わっているよな? ……大池!」 「あ、はい! ごちそうさまでした!」 「お前はまだ寝足りんのか!」 教室に、どっと笑いが起こる。 大掃除も片付き、明日以降の予定を確認するためのホームルームの時間がようやく終わった。 挨拶を済ませると、生徒たちはいくつかのグループになって帰り始める。 「ほんじゃま、俺も帰ると……ああ、ロン毛のやつがゲーセンにいるんだったっけ。ちょっと付き合ってやるか」 鞄を肩に引っ掛け、鼻歌を歌いながら教室を出ようとする健太の眼に、どんよりと暗いオーラを纏って机に突っ伏す高槻昇の姿が映った。 「はああぁぁぁ……」 「昇、どうしたんだ?」 「俺の皆勤賞……」 「ま~だ気にしてんのか……ホラ、お前もゲーセン行こうぜ」 そう言われると、人形のようにぐりんと首だけを健太に向ける昇。 「お前、俺たちもう3年だろ。さすがのお前でももう必死に勉強始めないと、受かる大学も受からなくなるぞ。……水無瀬さんと同じ大学、行けなくてもいいのか?」 それまで調子づいていた健太も、昇から真面目な話を振られて急に項垂れる。 「おいおい、もう無理だよ。春奈の受ける大学、二次試験の配点重視なんだぜ? いくらセンターでいい点取ったって、個別試験は殆ど筆記なんだからさ……諦めるしかないだろ?」 軽く肩を窄める健太に、昇は少しだけ笑顔で話掛けた。 「そっか。でもまだ、気持ち伝えてないんだろ?」 何も言えずに、健太はただ頷く。 「今年のうちに言わなきゃな。後で後悔しても遅いんだぞ」 「……ああ」 しょんぼりと肩を落とす健太の方を見て、昇はひとつ溜め息をついた。 「ふーっ……なあ健太、一緒にゲーセン行こうか?」 昇は立ち上がると、健太に手を差し伸べる。 「……いいのか?」 「ああ。勿論、お前の奢りだけどな」 「ちぇー」 遊びの誘いに健太は気を持ち直し、すぐに昇と並んで教室を後にした。 「昇……ありがとな」 「何だって?」 「なんでもねーよ!」
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