-第1章- 小さな魔法使い

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学ランのボタンを外し髪の毛を掻き上げると、健太は啖呵を切るように不良を挑発した。 「やい、テメーら! そんなちっちゃい女の子に寄って集って馬鹿じゃねーのか? 真昼間から人様に迷惑かけてるくらいなら、その空っぽの頭フル回転させて小学校からやり直しやがれ! 何なら俺がお前らに『さんすう』教えてやろうか?」 「なんだとテメエ! 舐めた口叩きやがって!」 不良たちが目の色を変え、一斉に健太目掛けて迫って来る。 「やべ! 昇、後よろしく」 「結局こうなるのか!」 逃げ出す健太の後を追いかけようと走り出す不良の前に、今度はふらりと昇が躍り出た。 「舌、噛まないようにな」 「!?」 昇は少し身を屈めると、脚のバネを使って素早く伸び上がり、不良の顎を突き上げるように拳で打ちつけた。 健太より頭二つ大きい長身の不良の体が反り返り、頭からコンクリートの地面に倒れ込む。 「救急車なら呼んでやるから、大人しく寝てろよ」 「てっ、てめ……今何しやがった」 襟を正してから、昇は口を利いてきた不良を見下すように言う。 「喧嘩の弱いやつってのはいつも頬か、せいぜい相手の腹を殴ろうとしかしないよな。でも、人間の最大の弱点ってのは頭だろ? ちょっと揺らしてやれば簡単に脳震盪を起こすんだ。こいつみたいにな」 昇は白目を剥いたまま倒れている男を顎で指す。 「まだやるって言うなら全員まとめて相手になってやってもいい。どうする?」 穏やかな顔で振り返った昇は、そう言い終えると共に表情を一変させた。 「おっ、覚えてやがれ!」 昇の迫力に恐れをなした不良たちは、のびたままの仲間を置き去りにしてそのまま退散していった。 「お、終わったか……よし、もうういいぞ昇」 「へいへい」 そう言うと昇はポケットから携帯を取り出し、119番に電話を掛け始める。 「キミ、大丈夫かい?」 健太がカツアゲされれていた少女に声を掛ける。 「はっ、はい! ありがとうございます!」 「あれ? 確か3年2組の」 「はい。私、結城亜由って言います」 「そかそか! でもま、俺が来たからにはもう安心だ。怪我は無かったかい?」 「はい! お陰様で!」 健太が亜由に紳士的に手を差し伸べるのを見て、受話器片手に昇がぼやいた。 「お前は相手を挑発するだけして、ずっと電柱の影に隠れてただろ……」
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