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学ランのボタンを外し髪の毛を掻き上げると、健太は啖呵を切るように不良を挑発した。
「やい、テメーら! そんなちっちゃい女の子に寄って集って馬鹿じゃねーのか? 真昼間から人様に迷惑かけてるくらいなら、その空っぽの頭フル回転させて小学校からやり直しやがれ! 何なら俺がお前らに『さんすう』教えてやろうか?」
「なんだとテメエ! 舐めた口叩きやがって!」
不良たちが目の色を変え、一斉に健太目掛けて迫って来る。
「やべ! 昇、後よろしく」
「結局こうなるのか!」
逃げ出す健太の後を追いかけようと走り出す不良の前に、今度はふらりと昇が躍り出た。
「舌、噛まないようにな」
「!?」
昇は少し身を屈めると、脚のバネを使って素早く伸び上がり、不良の顎を突き上げるように拳で打ちつけた。
健太より頭二つ大きい長身の不良の体が反り返り、頭からコンクリートの地面に倒れ込む。
「救急車なら呼んでやるから、大人しく寝てろよ」
「てっ、てめ……今何しやがった」
襟を正してから、昇は口を利いてきた不良を見下すように言う。
「喧嘩の弱いやつってのはいつも頬か、せいぜい相手の腹を殴ろうとしかしないよな。でも、人間の最大の弱点ってのは頭だろ? ちょっと揺らしてやれば簡単に脳震盪を起こすんだ。こいつみたいにな」
昇は白目を剥いたまま倒れている男を顎で指す。
「まだやるって言うなら全員まとめて相手になってやってもいい。どうする?」
穏やかな顔で振り返った昇は、そう言い終えると共に表情を一変させた。
「おっ、覚えてやがれ!」
昇の迫力に恐れをなした不良たちは、のびたままの仲間を置き去りにしてそのまま退散していった。
「お、終わったか……よし、もうういいぞ昇」
「へいへい」
そう言うと昇はポケットから携帯を取り出し、119番に電話を掛け始める。
「キミ、大丈夫かい?」
健太がカツアゲされれていた少女に声を掛ける。
「はっ、はい! ありがとうございます!」
「あれ? 確か3年2組の」
「はい。私、結城亜由って言います」
「そかそか! でもま、俺が来たからにはもう安心だ。怪我は無かったかい?」
「はい! お陰様で!」
健太が亜由に紳士的に手を差し伸べるのを見て、受話器片手に昇がぼやいた。
「お前は相手を挑発するだけして、ずっと電柱の影に隠れてただろ……」
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