-第1章- 小さな魔法使い

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その後、昇は携帯をしまうと、健太が途中で投げ捨ててきた鞄を渡す。 「自分のだろ? もう少し大切にしてやんな」 「お、サンキュー……」 鞄を返すと、昇は道路の真ん中でひっくり返る不良を一瞥してから言った。 「こいつらは放っておこう。救急車がすぐに駆けつけてくれるそうだ」 「んじゃま、俺らもさっさと行きますか」 鞄を受け取った健太は、ホームグラウンドと化している近くのゲームセンターに向かおうとする。 「んっ……」 「結城さん、大丈夫?」 亜由が小さな呻き声を出してしゃがむのを見て、昇が心配して声を掛けた。 「大丈夫です……大したことないです」 「大丈夫って……膝、血が出てるじゃないか!」 「なんだって!?」 それを聞いた健太が飛ぶように戻ってくる。 見ると、亜由のハイソックス膝下の部分が少し赤く滲んでいた。 「昇、悪いんだけどさ、ゲーセンまではひとりで行っててくれねーかな。ロン毛をいつまでも待たせる訳にはいかないし」 「お前はどうする気だ?」 「この子のこと、家まで送ってやる。いいかな?」 ワザとらしい溜め息をつくと、苦笑しながらも昇は承諾する。 「さんきゅーな。ロン毛には、明日謝っとく」 「じゃあ不本意だが、俺がお前の分までゲーセン行って来るからな。お前も、送ってやるとか言いながら、結城さんに変なことするんじゃないぞ」 「んなことしないって!」 「よく言うな。今日だってお前、水無瀬さんに鼻の下伸ばしてたじゃないか」 突然、昇が変化球を投げてきた。 「なっ、何故昇がそれを」 「ふふ、俺は何でも知っているのだよ、じゃな」 「おい昇……ってもう聞いてねーし! 畜生、覚えてろよー!」 見えない相手に向かって吠える健太の後ろから、クスクスと笑い声が聞こえる。 「ちょ、何がおかしーのよ!」 「すっ、すみません……でも健太さんって、本当に面白い人ですね」 「そうかな……あ、ほら、俺、負ぶっていくからさ」 健太が膝を折って後ろを向くが、亜由はぶんぶんと首を横に振った。 「そんな、ご迷惑じゃ……」 「そんな足で家まで帰せねーよ。ほら乗った乗った!」 「……すみません」 躊躇いがちにも、亜由はそっと健太の背中に負ぶさる。 ふんわりと香る石鹸の匂いに一瞬胸が高鳴ってしまったが、健太は平常心を保つよう自分に言い聞かせながら歩き出した。
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