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その後、昇は携帯をしまうと、健太が途中で投げ捨ててきた鞄を渡す。
「自分のだろ? もう少し大切にしてやんな」
「お、サンキュー……」
鞄を返すと、昇は道路の真ん中でひっくり返る不良を一瞥してから言った。
「こいつらは放っておこう。救急車がすぐに駆けつけてくれるそうだ」
「んじゃま、俺らもさっさと行きますか」
鞄を受け取った健太は、ホームグラウンドと化している近くのゲームセンターに向かおうとする。
「んっ……」
「結城さん、大丈夫?」
亜由が小さな呻き声を出してしゃがむのを見て、昇が心配して声を掛けた。
「大丈夫です……大したことないです」
「大丈夫って……膝、血が出てるじゃないか!」
「なんだって!?」
それを聞いた健太が飛ぶように戻ってくる。
見ると、亜由のハイソックス膝下の部分が少し赤く滲んでいた。
「昇、悪いんだけどさ、ゲーセンまではひとりで行っててくれねーかな。ロン毛をいつまでも待たせる訳にはいかないし」
「お前はどうする気だ?」
「この子のこと、家まで送ってやる。いいかな?」
ワザとらしい溜め息をつくと、苦笑しながらも昇は承諾する。
「さんきゅーな。ロン毛には、明日謝っとく」
「じゃあ不本意だが、俺がお前の分までゲーセン行って来るからな。お前も、送ってやるとか言いながら、結城さんに変なことするんじゃないぞ」
「んなことしないって!」
「よく言うな。今日だってお前、水無瀬さんに鼻の下伸ばしてたじゃないか」
突然、昇が変化球を投げてきた。
「なっ、何故昇がそれを」
「ふふ、俺は何でも知っているのだよ、じゃな」
「おい昇……ってもう聞いてねーし! 畜生、覚えてろよー!」
見えない相手に向かって吠える健太の後ろから、クスクスと笑い声が聞こえる。
「ちょ、何がおかしーのよ!」
「すっ、すみません……でも健太さんって、本当に面白い人ですね」
「そうかな……あ、ほら、俺、負ぶっていくからさ」
健太が膝を折って後ろを向くが、亜由はぶんぶんと首を横に振った。
「そんな、ご迷惑じゃ……」
「そんな足で家まで帰せねーよ。ほら乗った乗った!」
「……すみません」
躊躇いがちにも、亜由はそっと健太の背中に負ぶさる。
ふんわりと香る石鹸の匂いに一瞬胸が高鳴ってしまったが、健太は平常心を保つよう自分に言い聞かせながら歩き出した。
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