513人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふふ。健太のやつ、しっかりやれよ」
いなくなったふりをしていた健太の親友兼保護者の昇は、気づかれないように電柱の影からふたりの背中をそっと見守っていた。
「さてと。ロン毛が待ってるらしいし、俺も早く行くか」
昇も踵を返し、ゲームセンターに向かおうとしたがーー
「ん? あいつは……」
亜由を負ぶって歩く健太を見つめていたのは、昇だけではなかった。
民家の庭からひとりの少年が、じっとふたりを見ている。
やがてふたりが曲がり角を曲がって昇の視界から消えると、民家に忍んでいた少年も息を潜めるようにしながら、ふたりの後をついていった。
「気のせいか? でもあいつ、確かに……」
不意に、昇のポケットからロックミュージックが大音量で聞こえてくる。
どうやら着信メロディのようだ。
「はい! もしもし……なんだロン毛か……あ、悪い悪い、すぐ行くって……ああ。じゃあ後で」
待ちぼうけを食っているロン毛からの電話を受け、ようやく昇の足が動く。
「考えすぎ……だよな」
(……いかん、いかんですよ、俺)
健太と亜由は不良とであった住宅街を抜け、次なる住宅街とその間にある川に架かる、大きな鉄橋の上を進んでいた。
「健太さん、私、重くないですか?」
「そんなことないない。むしろ柔らかい、じゃない! 軽いくらいだよ」
「あ……よかった、です。すみません、お友達と遊びに行くところを……」
「いいっていいって! これで今日はふたりに奢らなくて済んだし! あはははは!」
(ははは……はぁ。どうして御桜高校の女子のスカートってこんなに短いんだよ。こんな直に太ももさわっちゃあ、何かとまずいだろーに)
「私、歩きましょうか?」
「そうしてもらいたいのは山々なんだけど、やっぱり怪我人を歩かせる訳にはいかないだろ?」
「分かりました……」
(ぬう。高校3年生とは言うが、制服着てなかったら小学生にも見えるぞ……どうでもいいけど、結城って結構可愛いな。あ、でも、俺そっちの属性ってあったっけ? 昇、俺どうすりゃいいかね?)
健太の苦悩は、もうちょっと続く。
最初のコメントを投稿しよう!