-第1章- 小さな魔法使い

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それから、飛び跳ねるように軽やかな足取りで、健太は街のゲームセンターへ向かう。 「この春休みはみんな勉強勉強って誰も付き合ってくれなかったからな! 久々にゲーセンで暴れてやるぜやっほい!」 鉄橋をあっという間に渡りきり、民家の庭をすり抜け、健太は街に出た。 夕刻になった街には、朝の雑踏が再び帰ってきて、車通りもより多くなる。 点滅する信号機をいくつも駆け抜け、健太は目的地目前までやって来た。 「はぁっ……はぁっ……ちくしょー、赤になっちまった。あ、そだ。そろそろ着くから待ち合わせ場所聞いとかないとな」 信号待ちをしている間に健太はポケットから携帯を取り出した。 「ん? メール受信中……昇からか。なになに……げっ!?」 文面の内容はこうだ。 ロン毛が学校帰りに遊べる時間のタイムリミットが来てしまったらしく、昇も一緒に帰るとのこと。 信号が青に変わり、人の波が交差する中健太だけが呆然と立ち尽くす。 「おいおい、まだ5時前じゃねーかよ……しゃーねぇ、俺ももう帰るか」 すっかり意気消沈した健太は、足取りも重く、とぼとぼと引き返し始めた。 「はぁーあ、今日はロクな始業式じゃなかったな」 洋服屋のディスプレイに映る自分を見て溜め息をつく。 「それもそうだよな。もう俺たち、来年受験生だもんな。みんな大学行くのか。何になりたいんだろ、俺は……」 再び溜め息をつくと、ガラス越しに何気なく店の中を見回す。 「洋服か。婆ちゃんは縫製業やってるんだよな。って俺には無理か。はは……ん?」 ガラスに映る自分と、街を歩く人々。 その人混みの中に、見覚えのある制服が見えた。 「今のは……春奈?」
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