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「じゃあ、私こっちだから」
「おう、また明日な!」
バイバイと大きく手を振って、春奈は雑踏の中に消えていった。
「なんだ。最後の最後でいいことあったじゃん」
「……それはどうかな?」
「またか……何処だ! 俺に話し掛けるのは一体誰なんだ!」
健太は声の聞こえた後ろを振り向くが、そこには誰もいなかった。
「やっぱり、幻聴なのか……?」
「どこを見ている?」
「!」
健太の耳には、確かに今、低い男の声が聞き取れた。
「私はここだ……」
健太が振り返った先に立っている電柱に貼られた『迷子犬、探しています』というポスター。
そこに描かれた犬の絵の口が、動いた。
「うわあああっ!」
健太が後ずさった矢先、今度は真横の郵便ポストに繋がれた柴犬が人語を話す。
「いつまでもたもたしている……早く私の力を継げ……」
「お前の掛け替えのないものを失ってからでは、もう遅い……」
「誰だ……誰なんだよお前……
? 止めろ、話しかけるな!
俺に、俺に話しかけるなあああっ!!」
健太は走り出した。
道行く人々をすり抜け、押しのけ、突き飛ばし、がむしゃらに走った。
時折、先の声が聞こえる気もした。
気もしたが、それでも走った。
目指すのは、自分の家――
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