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「よっ、はっ、ほおっ! うん、今日の炒飯のパラパラ具合は完璧ね! 後はコンソメスープを――」
「母さん、ただいま!」
「あら、健太? ひょっとして帰りに御夕飯食べちゃった?」
「まだ!」
「あらそう? もうすぐできるから、着替えたら食べに来なさい」
「おう!」
御桜ニュータウンのはずれ、新築の家々が軒を連ねる中に一際古風な一軒家が立っていた。
造りは洋風で、表札には大池と書かれている。
「全く、いつもあわてんぼさんね。弘さんに似たのかしら。ふふふんふふーん」
陽気に鼻歌を歌いながらエプロンを着込み夕食の支度をしているのは、健太の母大池日向子。
長い前髪を左右に分け、ご機嫌な様子で調理に精を出している。
「健太ったら、またあのひとの書斎かしら……困ったものね」
「はーっ、はっ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ……落ち着け俺、もう大丈夫だ」
鞄を床に放り投げ、背中をドアに貼りつかせた状態で深呼吸すると、ゆっくりと健太はその場に崩れ落ちる。
ここは健太の父親、大池博の書斎である。
床には真新しい緑色のカーペットが敷かれ、その上には真っ赤なソファ、それを取り囲むかのようにたくさんの本が詰まった大きな棚がいくつも置かれてある。
部屋には、年期の入った暖炉も置かれていた。
「うへ……なんだったんだ、あの声。そういえば、確か朝にも聞いたような気が……っ、何か頭痛ぇっ!」
呻き声を上げて、健太は頭を抱えながら床を転がり始めた。
「何だ、何なんだよ一体! 俺は一体何の声が聞こえたんだ? 幻聴か? てゆーか俺、何と話をしていたんだ?」
「ーーそれってひょっとして、白い犬みたいなやつ?」
「あー、確かそう……だああああ!?」
その場で跳ね起きると、健太は一目散に父親の書斎から逃げ出した。
「あらら、驚かすつもりはなかったんだけどな」
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