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(何だ……まさかうちの中にまでついてきやがったのか? でも今の声は聞いたことないやつだ)
廊下に出、今度はリビングへと逃げだそうとした健太だが、しばらく考え込むと書斎のドアノブに手をかけ、おそるおそる中へ入ってみた。
「あー、ごめんごめん、先にお邪魔しますだったかな?」
「お前は……誰だ!?」
書斎に置かれた椅子に、ひとりの少女が腰かけていた。
身長は健太の首元ほど、蒼い瞳に明るい栗色の髪をふたつに結わえた小さな少女。
深緑色のオーバーコートを着ているが、中には薄いインナー、下はハーフパンツという少し変わった格好をしている。
「初めまして、あたしは第1アルカナの『魔術師』。君の名前は?」
「……健太。大池健太だ。お前、何者だ? どっから入ってきた? 何しに来た? それ親父のコートだぞ? あとその椅子は俺の特等席なんだけど!」
「だー、もう! 一遍にしゃべんないでよ! ひとつずつ答えてあげるから!! んでその前に」
「何だ?」
「……お腹空いた」
「おかわり!」
「はいはい、今日はよく食べるのね」
健太はいつの間にかリビングにいた。
「母さん、悪いんだけどさ、続きは父さんの部屋で食べてもいいかな?」
「どうかしたの?」
「いや父さん、今年もまだ海外赴任から帰ってこないんだろ? なんかさ、最近寂しくってさ。あの書斎にいると、何となく父さんと一緒にいるような気がして……」
日向子はテーブルの片隅に置かれた家族の写真を見る。
そこには、父と母、そして息子と、川辺で一家団欒を楽しむ家族の顔が写っていた。
「健太、今でもお父さんのこと、好き?」
「好きって言うか、憧れかな? 親父は今、新薬の研究のために海外にいるんだろ? それってすげえじゃん! 俺もいつか、親父みたいに立派になってみてえ!」
健太がそう言うと、日向子は呆れた顔をして応える。
「床、汚さないように食べなさいよ?」
「母さん……ありがとな!」
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