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「――という訳で、何とか持って来てやったんだから、ありがたく食えよ!」
母特製の炒飯を持って、書斎に帰って来た健太。
それを見て、『魔術師』と名乗った怪しい少女は目を丸くした。
「なにそれ、なんてパン?」
「パンじゃなくてチャーハン! ……ひょっとしてお前、炒飯知らないのか?」
「知らない。始めて見た」
今度は健太がキョトンとした表情で少女を見つめる。
「そっか。確かによく見ると、お前外国人だよな。しかもアジア系には見えないし……。まあいいや、食ってみろよ。スプーンの使い方くらいわかるだろ?」
少女はコクンと頷くと、慣れない仕草でスプーンを掴み、日向子の労作を口に運ぶ。
「……どうだ?」
「……おいひい」
「え?」
「美味しい、何この料理! すっごく美味しい!」
「そうかそうか! よっしゃ!」
「いや話の流れからして、別にあんたが作った訳じゃないでしょ」
「ぐふん……! 作ったのは俺の母さんだよ」
皿一杯に盛られた炒飯をスプーンでかき込み、少女はあっという間に平らげてしまった。
「はうー。ごちそうさま。ねぇ、これってこの国の料理?」
「いや、お隣りの中国だが?」
「ほっほう、これが噂に聞くチャイニーズか……」
舐めまわすような視線で食器を見つめる少女から皿を取り上げ、健太は少女に訊ねる。
「お前やっぱり西洋の方に長い間居たんだろう」
「うん。確か1908年まで。アルカナスゲームが始まってからの400年は、ずっとイギリスとかおフランスあたりにいたよ」
「……はい?」
「だーかーらー! それくらい長い間、世界の西側でしかアルカナスゲームは起こらなかったの! ええーっと、ここ、日本? とにかく、世界の東側、それもこんな島国でゲームが始められるのは、今回が初めてってことよ。どぅーゆーあんだーすたん?」
「もしかしてお前……人間じゃないのか?」
「ええ。もともとは人間だったんだろうけど、今は違う。信じられないのも無理はないかも知れないけどね」
嘘だろ、そう言おうとした健太は、ようやくあることに気づく。
椅子から立ち上がった少女を見て、確信した。
「影が……ない」
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