-第2章- アルカナスの徒

2/39
前へ
/688ページ
次へ
(結局昨日は寝付けなかったな。ふぁ~あ……) 明くる日の早朝。 眼の下に隈をこさえ、伸び欠伸をしながら登校する健太。 (それにしてもあのチビ、一体どこに消えたんだ? 今朝もずっと親父の書斎にいたけど見当たらなかったし、大体、何だって俺のことを……) 考えれば考えるほど、分からないことが次々に浮上してくる。 (誰かに相談したところで誰も信じてくれそうにないし、手掛かりと言えば……) 健太はポケットから古ぼけた1枚のカードを取り出す。 『愚者』ーーそれがこのカードの名前だ。 (アルカナス……いまいちまだよく分かんねえな。要はこのカードには精霊でも宿ってんのかよ) 「……もしもーし」 何を思ったのか、健太はカードに向かって声を掛けてみた。 「しかし、無情にもカードからは何の反応も見られない。ってか? だよなぁ……」 健太はカードを噛んでみたり、日光に透かして見たり、ぶんぶんと振り回したりと、思いついたことを片っ端から歩きながら試していた。 心なしか、道行く人々の視線が痛い。 (だんだん恥ずかしくなってきたぞ! 何やってんだろ俺ー……ん?) ちょうど進行方向の道路脇から伸びる電柱の影に、同じ御桜高校の制服を着た男子生徒の姿を見つける。 彼はまるで尾行でもしているように、電柱の裏に身を隠していた。 「ああ結城さん、君は何て可愛らしいんだ……その小学生のような華奢な身体はけしからん、実にけしからんぞぉ……ゴクリ」 「……お前、なにやってんだ?」 「うをっ!」 健太が後ろから声を掛けると、男子生徒は驚き竦み上がった。 「だっ、誰だね君は! いきなり背後から声を掛けるなんて、失礼極まりないじゃないか!」 「あ、どうもすんません。あれ、確か二組の……」 「生徒会副会長の栗原薫だ。うちの生徒のくせに、名前くらい分からんのか?」 「……サーセン」 「サーセンとは何だ! す・み・ま・せ・んだろう?」 (何なんだこのAボーイ眼鏡野郎……非常にムカつくのだが) 健太の言動にご立腹の様子であるこの少年の名は栗原薫。 坊っちゃん刈りに長身細身で眼鏡をかけた、いかにも勤勉そうなタイプの生徒である。
/688ページ

最初のコメントを投稿しよう!

513人が本棚に入れています
本棚に追加