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(結局昨日は寝付けなかったな。ふぁ~あ……)
明くる日の早朝。
眼の下に隈をこさえ、伸び欠伸をしながら登校する健太。
(それにしてもあのチビ、一体どこに消えたんだ? 今朝もずっと親父の書斎にいたけど見当たらなかったし、大体、何だって俺のことを……)
考えれば考えるほど、分からないことが次々に浮上してくる。
(誰かに相談したところで誰も信じてくれそうにないし、手掛かりと言えば……)
健太はポケットから古ぼけた1枚のカードを取り出す。
『愚者』ーーそれがこのカードの名前だ。
(アルカナス……いまいちまだよく分かんねえな。要はこのカードには精霊でも宿ってんのかよ)
「……もしもーし」
何を思ったのか、健太はカードに向かって声を掛けてみた。
「しかし、無情にもカードからは何の反応も見られない。ってか? だよなぁ……」
健太はカードを噛んでみたり、日光に透かして見たり、ぶんぶんと振り回したりと、思いついたことを片っ端から歩きながら試していた。
心なしか、道行く人々の視線が痛い。
(だんだん恥ずかしくなってきたぞ! 何やってんだろ俺ー……ん?)
ちょうど進行方向の道路脇から伸びる電柱の影に、同じ御桜高校の制服を着た男子生徒の姿を見つける。
彼はまるで尾行でもしているように、電柱の裏に身を隠していた。
「ああ結城さん、君は何て可愛らしいんだ……その小学生のような華奢な身体はけしからん、実にけしからんぞぉ……ゴクリ」
「……お前、なにやってんだ?」
「うをっ!」
健太が後ろから声を掛けると、男子生徒は驚き竦み上がった。
「だっ、誰だね君は! いきなり背後から声を掛けるなんて、失礼極まりないじゃないか!」
「あ、どうもすんません。あれ、確か二組の……」
「生徒会副会長の栗原薫だ。うちの生徒のくせに、名前くらい分からんのか?」
「……サーセン」
「サーセンとは何だ! す・み・ま・せ・んだろう?」
(何なんだこのAボーイ眼鏡野郎……非常にムカつくのだが)
健太の言動にご立腹の様子であるこの少年の名は栗原薫。
坊っちゃん刈りに長身細身で眼鏡をかけた、いかにも勤勉そうなタイプの生徒である。
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