-第1章- 小さな魔法使い

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御桜高校は小高い丘の上に建てられており、校舎の至る所に桜の木が植えられている。 男女共学の公立の学校であり、今から4年前に建てられたばかりの新設校だ。 「とは言っても、俺たちも今年で卒業かー」 「まだ1年も残ってるぞ! それにお前、今年も一昨年も進級まで漕ぎ着けたのが本当にギリギリだってーのを忘れてないだろーな!? 下手したら、来年は卒業できないぞ?」 灸を据えるように忠告する昇の言葉は、欠伸をしている健太の右の耳から入り、左の耳から抜けていく。 健太は過去に二度留年の危機に瀕していたが、間一髪でそれらを乗り越え、どうにか無事進級できている。 大方友人のバックアップのお陰なのだが、健太が偏差値の高い御桜高校の受験を突破し、ダブラーのピンチを乗り切ってこられたのにはまだ理由があった。 「だーいじょうぶだって! とりあえず俺、センター試験だけは失敗する心配はないんだから、みんながそっちに回す分の時間で卒考の勉強すればいいんだよ。なんつったって俺、神の直感の持ち主だからな」 「まぁ、それに関しちゃ否定はしないけど」 昇が呆れながら言う通り、大池健太は並外れた直感の持ち主だった。 過去2年間に渡るマーク式模擬試験において、常に学年トップの成績を「勘」のみで叩き出してきた経歴をもち、その成功率たるや未だに100パーセントのままである。 「でも筆記になった途端何も書けなくなるんだよな?」 「ちょ、人が気にしていることを!」 いくら記号選択やマークができても、基本的に勉強をしない健太は筆記問題には為す術がない。 模擬試験が記述形式になるや否や、偏差値のランキングから大池健太の名前はすぐに行方をくらましていた。 「それはそれ。選択肢の問題全部当てれば、あとは空欄問題は根性で何か書けば部分点もらえるから、多分、きっと、絶対俺大丈夫だよ!」 「空欄に落書き描いてたやつが何を言う」 「ぬっ……」 昇の辛口コメントに口をすぼめ、健太はしばらく考え込んでから全てを悟り切った顔でこう言った。 「うむ、風が気持ちいいなぁ!」 「誤魔化せてねえよ」
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