-第1章- 小さな魔法使い

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不意に、御桜高校のグラウンドを一陣の風が吹き抜ける。 それは木々に咲き乱れる桜の花びらを吹き飛ばし、桃色の桜吹雪を辺り一面に美しく散らせた。 「ひゅー、気持ちいいな、昇! なんかさ、春一番って感じだよな!」 「健太、違うぞ。春一番は2月から3月にかけて、その年最初に吹く強い南風のことだ」 「へー、昇先生は博学でいらっしゃる」 健太は二カッと笑い、大きく伸びをする。 「ふぁあ~っあ、なぁ昇、そんな豆知識はいいからさ、もっと俺の為になること教えてくれよ。例えば背の伸ばし方とか!」 「そうだな……とりあえず」 昇が言いかけた時、校舎から朝のホームルームの予鈴が聞こえてくる。 「おぁっ、もうこんな時間か! 急がないと朝のホームルームに遅れてしまう!」 「おい、ちょっと! 昇、背――」 「規則正しい生活を心掛けろ。以上!」 適当に話を打ち切ると、昇は校舎へと向かって走り出した。 御桜高校は2階に職員室と体育館がある関係で、3年生の自教室は4階にあり、始業のチャイムとよく決闘する生徒にとってはかなりのハンディキャップとなってしまう。 健太は遅刻の常習犯であるが、3年間無遅刻無欠席を達成することで貰える「御桜高校皆勤賞」を狙っている昇にとっては、何が何でも遅刻は免れたい。 「うおおお! 皆・勤・賞!!!」 凄まじいピッチで駆ける昇は、すぐに健太の視界から消えてしまった。 「ぜいっ、はぁ……昇のやつ、あんなに足速かったっけ?」
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