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源燃炉が稼動してフロアが湿り出す頃、柱時計がボォンと古くさい音を5回鳴した。 ニアは自室のベッドで、マナが話した昼と夜の事を思い出していた。 生活のサイクルは昔と大差ないが、地上では明るい時間と暗い時間があるらしい。 「だとしたら地上は今は夜明けという事かな…。」 初めて、マナの家に行ってから5日が経っていた。 そして今日も、ニアはマナのお気に入りの場所、「木漏れ日の場所」に足を運んだ。 マナに会う度、地上の話を聞いては、それは何、それは何故、と質問を繰り返していた。 別段、地上に憧れていた訳では無かったが、マナをそこまで駆りたたせる理由に興味がわくのであった。 マナはひとつひとつの質問に丁寧に答えて得意気に「他には」と囃立てる。 しかし今日のマナは流暢さに欠けた。 きっかけはニアの質問である。 「 ――地上へ行く手段はあるのかしら―――」 「えっ?」 何かを言いかけようとして黙り込み、しばらくしてからマナは口を開いた。 「行ける…。行けるはずだよ。だって、昔の人は地上から来たんだもの。きっと、地上に行く道だってあるはずだ。――」 ニアにはマナが、やや狼狽しているように見えた。 珍しく不確かな返答をしたマナだったが、本人も自分の発言には納得いってない様子だった。 ニアは、愚問だったな、と思った。 恐らくマナは、ずっとその方法を探しているに違いないのだ。 そんなに地上が好きなのだから行き方を知っていれば、もうとっくに行っている筈なのだ。 マナを縛るものはここには何も無いのだから。 マナを地上の激憧から解き放つモノなど何も無いのだから。
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