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「実は一度、試みた。」 とマナは赤い髪を揺らしてみせた。 各フロアが居住区として独立しており、どこかに連絡口がひとつづつ、上の階と下の階へ通ずる道がある。 そこを通過するための手形や通行証などというものは存在しないが、上の階に行った所で特にそのフロアの生活ぶりが変わっているという事も無い。 途方も無く、横ばいに伸びているこの居住区で必死の思いで連絡口を探して、上の階に行けたとしても、来た階となんら変わることの無い世界がそこには有り、それでも登り続けてみたが、その度にがっかりさせられた。 とマナは言う。 ニアは呆気にとられながら少年の話を聴いていた。 「次こそは、次こそはと思いながら4、50階程は登ったかなあ。そのうち、あまりの変化の無さに、まるで同じところをぐるぐる回っているかの様な感覚に陥ってしまうんだよ。」 「そして、中断。僕は登るのをやめた。もう、二年も前の事さ――。」 ニアは首を傾げ、躊躇いがちに聞いた。 「それで、また降りたの?」 「いや、降りなかった。 つまり、ここは僕が生まれたフロアでは無いんだ。」 リアクションに困っているニアを見ながらマナは続ける。 「でも、諦めた訳では無いよ。 また登り始めるつもりだ。 残された時間は限られているのだから――。」
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