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ここまで聴いて、ニアは驚愕を禁じ得なかった。 「知らなかった。この居住区がそんなに長く連なっていたなんて。 気にもしなかった。自分がどのくらい深いところに住んでいたのかなんて――。」 「僕は知りたかった。地上までの距離を。 そして、不安だった。自分がどの位置に存在しているのかも分からなかったから――。」 ニアは嫉妬と無力感の混同したような形容しがたい恥ずかしさに囚われた。 自分は狭い世界で生きているのだと、なぜ自分が存在する意味を問う事をしなかったのかと言われた様な気がした。 そんなニアの様子を見て少年は言う。 「相反する様に感じてしまうかもしれないけれど、その違いなんてささやかだ。 僕は地上の光が見える場所を知っていた。 不確かだけれど、自分の距離を感じさせる目安が存在した。 君は知らなかった。 それだけの事だ。」 「さあ、もうおうちに帰ろう。 ここは寒くていけない。――」 もう、すでに地上の光は届いていなかった。 赤い髪の少年の目に淋しさがかげる。 ニアは無知すぎた。それを自覚したばかりなのに、この少年の心もとない背中はどうだ。 進む事は勇気がいる。 歩んで来た道程に残して来てしまった何かを、永久に失ってしまうかもしれないからだ。 「無駄を省く」という日常が私を含め、今の人間には当り前になり過ぎているのかもしれない。 だからどうしても、進む過程の中に於いて、捨て去る潔さと決意に欠けてしまうのだ。 そして、人間は保留という選択を取りり続けてゆく。 いつしか、進む事の意義さえ忘れてしまう。 しかし―― 少年は振り向き弱々しく言った。 「僕は本当に地上に辿り着けるのだろうか。――」 この少年もまた、何も得てはいないのだ。 「―そうね。今日は帰りましょう。」 うなずいて少年は淋しそうに笑った。
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