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数日後、マナが倒れた。
偶然、ニアが一緒にいる時だったので、すぐさまゾイドの部屋に連れていった。
医療技術の失われた地底ではエリア毎に急凌医が配置される。
しかし、ろくに医療機器も揃ってはいないので、簡易的な健診しか出来ないのではあるが、他に頼る所も無く、皆こちらの世話になっているのが実状だ。
それが、ニアのW135エリアではゾイドだった。
彼は弱冠12歳にして、A級凌医資格を取得しており、辺境のW135エリアでは重宝がられていた。
ゾイドはベッドに横たわり、未だ意識の回復をしていない赤髪の少年に腕組みし、怪訝そうな顔をした。
「――これは、」
ゾイドの口の動きをニアは祈る気持ちで見つめていた。
「――ロメロ症ですな。」
聴診器を取りながらゾイドは年齢にそぐわない言葉遣いで答えた。
ロメロ症。
あまねく全ての人間がいずれ発症する不治の病。
昔から、存在する病気で最初は高齢層の病であったが、次第に若齢化していった。
今の時代には伝えられてはいないが、当時の科学者達の間では、遺伝子レベルの菌糸が食い込んでしまっているため、治療が不可能であるうえに生まれた時から逃れられない運命にあるという無慈悲な結論が下されていた。
しかし、最終的に死を迎える事が決定づけられている以上、その理由などは最早、何人にも関係の無い事だった。
医療技術の衰退したこの時代に、病気の原因を知って何になろう。
ただ、己の無力感にうちひしがれるだけだ。
人間は今では原因不明の死の影、ロメロと共存してゆく他ないのである。
死は特別な出来事では無く、至って生活の一部なのだ、という意識があたかも慰みから常識へと推移していくかの様に、人々の感情を徐々に、しかし確実に虚無の闇衣で支配していった。
そして、
人々は明日に希望を持てなくなった。
哲学の根源はともかく、ロメロ、これこそが寿命の低下の正体である事は間違いないのだから。
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