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二日後、マナの意識が回復したとゾイドからの報告があった。 ニアが病室の扉を開けると、マナはベッドの上に起き上がっていた。 しかし、ニアの方を振り返る事も無く、只、手鏡を覗きこんでいた。 ニアは、ぎくり、とした。 ロメロ症に本人への告知は無い。 皮膚に滲む赤い影が全てを物語っているからだ。 しいて言うなら、その手鏡が死刑宣告の無慈悲な裁判官となるのだろう。 赤い髪がマナの横顔を隠している。 見えない表情が悲痛だった。 かける言葉が見つからなかった。 「僕、もうすぐ死ぬんだ。」 といって振り向いたマナの声は明るかった。 しかし、ニアは目を逸らした。 百年の刻が病室を埋め尽くしていく。 沈黙が少年をもっとも傷つける台詞なのかもしれない。 しかし、ニアはそれ以外の台詞を探し出せずにいた。 「なんて顔してるんだい。別に君が死ぬ訳じゃあ無いんだ。」 結局、沈黙をかき消したのはマナだった。 「君、僕が可哀想だって思ってるんだろう。 そんな事は無いよ。 誰だって、いつかは死ぬんだ。」 「―でも、地上にはっ――」 ここまで言いかけてニアは涙が溢れて何も言えなくなった。 (行けなくなって良い訳がないじゃない。 会う度にあれだけ楽しそうに話していたじゃない。) それ自体、言うべき事では無いのかも知れない。 しかしどの道、声が震えてしまいそうで上手く話せないのだ。 「何かを成すには人生は短か過ぎる。 地上を見れないのは残念だけれど、この時代で夢を見れただけでも僕は幸せ者だ。」 マナはベッドから降りて、ニアの顔を覗きこんだ。 「――さあ、もう泣かないで。 ニアは僕より年上なのに泣虫だなあ。」 「――あなたは年下のくせに生意気ね。」 マナが笑うと、ニアも泣き顔で笑った。
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