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「――で、地球は八割方、水に覆われてしまっているのさ。」 いつしかニアとマナはまた地上の話をしていた。 「へえ、不思議ね。地上に行く時、もし、間違って水の中に出てしまったら溺れてしまうわね。」 それはたぶん大丈夫、とマナは笑った。 「不安なら光を目指して行けばいいよ。幾ら水でも光を遮るから。光を出口にすればいい。」 「――でも、光の出口はひとつではないのでしょう。」 とニアが言うと、マナは目をまるくして、驚いたな、なんで知っているの。と身を乗り出した。 「だって、マナは小さい頃から地上の光を知っていたと言ったでしょ。 だとしたら、二年前にこのフロアに辿り着いて、初めて「木漏れ日の場所」を知ったとは考えづらいもの。」 「なるほど。」 マナは笑っていた。 ニアは笑顔を絶やさぬように努めていた。 この会話すべてがマナにとって不毛でしかないのではないかと気になって使用が無かったが、偽りでも二人で笑い合える事がせめてもの救いに感じられるのだ。 でもね、とマナが口を開いた。 「目指すならば、やっぱりあの光だ。 確かに木漏れ日の場所は他にも存在しているけれど、全部途中で進めないようになっているんだ。」 マナの眉間にしわがよる。 「もしかしたらあの光に通じる道もまた、途切れてしまっているのかもしれないけど…。」 「でも!唯一の可能性ではあるんだ。」 そういったマナの瞳は輝きを失ってはいなかった。 ニアは得体の知れない奇妙な違和感を覚え、何故だろうか、と思った刹那、少年は突然その場に頽れた。 「だ、大丈夫?」 「――…うん。少し疲れたのかな。」 「ごめんなさい。あたしったら気がつかないで。まだ、熱があるのに。」 「気にしないで。それより今日は話せて良かった。」 と言ってマナはズボンのポケットから小さな袋を取り出した。 「――これは…?」 袋の中には小さなかたまりが4、5粒はいっていた。 「――これは、『種』と言って地上ではこれがやがて花になるんだ。地底ではそれも叶わない。 でも、明日を信じるなら僕はこれをニアにあげるよ。」 「え、でも…」 「いいんだ。お礼だよ。受け取ってくれ。」 種を受け取る時に、ためらいがちに触れた手の温もりが、ニアには堪らなく淋しかった。
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