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ニアは努めて冷静に保つように自分に言い聞かせていたが、足取りは除々に回転を速めた。
今朝見た夢のせいか、気分が高揚していたのだが、マナに会って話す事できっと落ち着くと思っていたのだ。
しかし、ゾイドを訪ねると思わぬ返答が返ってきた。
「ああ、彼なら昨日、家に帰りましたよ。
熱はまだありますが、意識も回復した事ですし、何より本人が、落ち着く場所で余生を過ごしたいと申しでてきたのです。」
病院を後にしたニアはその足でマナの家へと向かった。
マナの家は相変わらず、鬱蒼としていた。
ニアは見上げて溜め息を漏らした。
(こんなところが落ち着く場所なんだものな。)
チャイムを鳴したが返答が無い。
もう一度鳴してみた。
……無言。
しびれを切らしたニアは玄関の戸を開けた。
「――マナ、…いるの。」
呼びながら奥の方に入っていく。
きっと寝ているのだろうと思い寝室の戸をノックした。
「――マナ、開けるよ。」
……やっぱり返事はない。
しかし、人の家に勝手にずかずかあがりこんで良いのだろうか、等と思慮を巡らしてみたが今更引き返す訳にもいかない。
ニアは思い切って戸を開けた。
がらんどうとしていた。
そこには只ベッドがあるだけで、少年の姿は見当たらなかった。
しかし、ベッドはまだ温かい。
ニアは家中さがしたが、ついにマナを見つけることは出来なかった。
「――どこに行っちゃったの?」
ニアは殺風景な部屋の中でそこにいるべき少年の幻影を眺め、只、呆然としていた。
(――もう、探すところなんか…)
あった。
木漏れ日の場所、だ。
ニアは走り出していた。
(――マナはきっとそこにいる筈だ。黙って上方を見上げていて、あたしに気付いて「やあ。」と笑いかけてくれるに違いない。)
(そうだ。今日の夢をマナに話そう。
マナが夢の中に出てきて夢の続きを教えてくれたんだよって。
でもね、マナ。
闇に相対している者があたしなら、
マナは…――。)
ニアは結論を急がなかった。
今は、走る時。
早くマナに会いたい。
会って話さなければならない事がある気がする。
それは、その先の結論に見えている事だ。
今は、ただ、マナのもとに。
ニアの足は尚も加速度を増してゆく――。
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