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「やあ。またきたね。」 少年は笑顔で少女を迎えた。 改めて少年を見てニアは自分より2、3歳は若そうだと思った。 ニーナが男の子に走りよる。 「あっ、ニーナ」 ニアは驚いた。 ニーナが自分以外の人間に自ら近寄ろうとしたのを見たのは初めてだったからである。 ニアは猫とじゃれている少年の体をまじまじと見ていた。 ニーナが少年になついていることより、あの時、体が光っていたのが気になっていたのである。 それに気付いて男の子は不審な顔をした。 「どうか、した?」 「…え?、…あ…」 ニアはその事を説明しようとしたが、ますます不審に思われるだろう事を懸念して、只にこりと笑った。 「なんでもないよ」 それから二人は話をした。 男の子は名をマナと言った。 親はマナの命と引き替えにこの世を去り、天外孤独の身であったが それも今や珍しくない。 食料は定期的に配給されるので、生きる分には不自由し無かった。 最近、お気に入りの場所を見つけたので、毎日のように足を運ぶのだという。 そこは 地上の光の届く場所。 微かではあるが決まった時間になるとチラチラと淡い黄色の光を洩らす。 ニアはその時、遠くの天井の光が地上のものである事を知った。 そして尋ねる。 「なんで光を見ているの。」 少年は寂しそうに笑った。 「ここには、灰色の壁、灰色の床、灰色の天井、おまけに灰色の造花。見渡す限り灰色の世界しかないんだ。」 「でもね…」 「あの光の向こうには色とりどりに咲き乱れる花、見渡す限りの緑の大地、どこまでも蒼く広がる空があるんだ。その光を見ているとどこからか元気が湧いてくるのさ。」 赤い髪がキラキラと輝く。 「ああ、一度でいいから地上に行ってみたい。」 その時、ニアは なんて目がまわりそうなのだろう。 と思った。 「灰色のほうが落ち着いてあたしは好きだな。」 正直その光は、か細く、ひなびたもので、とてもでは無いがニアには魅力的には映らなかったのであった。
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