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黒い風が、夜道を駆け抜ける。
月明かりが、コンクリートの道を照らし出した。
「―――おい! そっちに行ったぞ!!」
「―――こっちだ!!」
闇夜の住宅街に、男達の声が響く。
1つの人影が、ヨロヨロと塀に近づいた。
背格好からして、若い男だろう。
「……ハァ……ハァ……。……クソッ……」
塀に腕を押し当て、体を支える。
背中を超えるほどの黒髪が、サラリと肩から垂れた。
ポタリ……。ポタリ……。
ダラリと、力無く下げられた左腕から、赤い赤い、血が流れ落ちる。
ザリッ……。
壁を背にして寄りかかる。
ふと、人影が夜空を仰いだ。
「……ハァ……ハァ……。……早く……会わなければ……―――」
人影は何か小さく呟くと、次の瞬間、その場から、忽然と姿を消した。
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