晴れた日のこと

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せっせと桜の花びらを集める。 しかし、ついつい花びらの綺麗さに見とれて手を止めてしまう。 その繰り返しで中々作業は捗らない。 そんな早苗を遠くから見ていたのか。 はっはっと豪快な笑い声をあげて一人の男が近づいてきた。 「そんなに桜が綺麗か、早苗?」 濃い藍色の着流し姿。 それは見事なまでにこの日本庭園にとけ込んでいた。 しかし、その人物の顔を見ると早苗は驚いた顔をして頭を下げた。 「すみません!旦那様!」 「ハッハッハッ。いいいい、頭下げるな。おめぇの、のんびりした性格は今に始まった事じゃねぇだろう?」 顎に蓄えた髭を右手で触りながらまた豪快に笑い飛ばした。 この人物こそ、今の日本経済を支える高島グループ、当主の高島泰三である。 数多くある会社を纏め、決断をくだしながらこの高島グループを取り仕切っている人物だ。 しかし、豪快で人情家、面倒見の良い性格から多くの社員、使用人から慕われている存在でもある。 このような大きな組織が今まで亀裂なく成長を遂げたのは彼の人柄だからだと言ってもいいくらいだろう。 早苗も、この人に関しては自分の中での絶対的な存在に値する。 それは他の使用人や社員にも当たることなのだが、早苗に関しては少し例外とでも言えるある事情があるからだ。
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