7人が本棚に入れています
本棚に追加
定型という切なさ
そんな感じで,初日目の僕らはあまりに無力であった。言い訳はある。何も説明されてないから仕方ないだろうという。
二日目以降,施設での仕事を続けるに連れて,コツが掴めてきた。例えば,トイレに行きたいという際は,よくみると足に力が入り,立とうとしているのである。当たり前のことだが,口や表情に一切出さないと,これだけのことを気付くのも大変であった。そして有効だったのが「How are you?」である。掃除や他の仕事の最中でも近くにお年寄りがいたら何気なく話し掛ける。残念ながらこちらが何を言っているかわかっていないし,向こうの返事をこちらも理解出来ない。しかし目が合った時には何か感じるものがある。疲れた目をしていたり,何か切羽詰まった目であったり。
これらのことがわかるようになってから,カービーさんから話を聞いた。
「施設にいるお年寄り達は毎日大体決まったことしかしない。トイレに行く。食事を食べる。庭で散歩する。椅子に座って友達と会話する。寝る。でも彼らは機械じゃない。ちゃんと感情があるんだ。
僕らは教えられると忠実に再現しようとする。それなら間違いはないからね。でも自分が相手に発信する信号に対して,受け取る相手が毎回同じような返事をよこしたらどう思う?それこそ機械のように。個人が蔑ろにされている気分がすると思うんだ。だからここではこの時はこうしろとか説明はしない。それぞれが自分なりに相手の感情を読み取って,それぞれの解答を示すんだ。相手は何を思っているのか。どう返したら喜ぶのか。それを考えて表すのが思いやりです」
最初のコメントを投稿しよう!