君の隣

8/11
前へ
/219ページ
次へ
お昼の休み時間、拓人は珍しく屋上へと一人やってきた。 「きもちいー」 風にあたって気分をすっきりさせたかった。 (俺があの日からおかしいことに、きっと、創は気付いてる。) フェンスに寄りかかり、入学式からの二週間を思いだしていた。 屋上の奥の方から声がした。 なにやら女の子の声がどんどん大きくなる。 拓人は気になって静かに近付いてみた。 そこには、見たことのない女の子と見慣れた創の姿があった―― 「落ち着いて」 「いや!だってこんなに好きなんだもん!!私を彼女にして!」 女の子は涙を浮かべながら創に言っている。 「だから、俺には好きな」「さっきから聞いてるけど誰?!うちの学校なの?!」 女の子は、落ち着くどころか創に近寄り制服を掴んだ。 拓人は、ドクンドクンと大きくなる心臓の音に逆らえず、その場から固まったように動けずにいた。 (見たくない…聞きたくないのに) 涙が自然と一粒溢れた。 「その人に迷惑がかかるから言えない。俺には、その人が一番大切なんだ。ごめん」 創は彼女の真っ直ぐに見て言った。 女の子は、涙を流すと屋上の出入り口に向かって走ってきた。 (やばっ!!) そこの近くには拓人がいたが、女の子は両手で顔を隠していたので拓人とは目を合わさず階段を降りて行った。 拓人は、ほっと息をついたが背後に人の気配を感じた。 「っ!!」 「拓人…」 創が、拓人のすぐ後ろにいた。 「ご、ごめんっ」 拓人は思わず逃げたくなり走ろうとしたが、創に腕を掴まれて動けなかった。 「っ!」 「なんで逃げるんだ?」 「…‥」 拓人は何も言わず肩を震わせていた。 創は、拓人の顔を見ようと覗いた。 「これ…」 涙の流れた跡に、そっと創の指先が触れた。
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!

830人が本棚に入れています
本棚に追加