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〈では、私はこれで…〉
クロウは恭しく一礼し、ドアへ向かった。
〈…あ、ニコラウス。今は持ち合わせが無いのだが、代金はいつか払うからな〉
「何の?」
〈マスコットのだ〉
「構わないわよ。ニコラウスに働いて返してもらうから」
「ちょっ…!ロゼ!」
「勝手に売るあなたが悪いのよ。反省なさい」
「ごめんなさい…。クロウ…」
〈何だ?〉
「…クロウにとって《大切なもの》って《主》だよね?もし、《大切なもの》が無くなったら…どうする?」
〈…さぁ。探すかもしれないし、泣き叫ぶかもしれない。死ぬかもしれないしな。あるいはそれ以外かも…。ニコラウス、よく覚えておけ。常に《大切なもの》を想い続けろ。《人》でもいい。《物》でもいい。《空間》、《記憶》、《感情》…何でもいいから、《本当の大切》を胸に抱き続けろ〉
「《本当の大切》?」
〈そうだ。知ってるか?《大切なもの》があると、無敵になるそうだ。主が何度も言っていた〉
「強くなったら、どうすればいいの?」
〈守れ。何が《大切》で、何を《守る》かは、その空っぽの頭で考えろ。次に会うときまでの課題だ〉
クロウはそのまま外へ出ていった。
クロウの《大切》は《主》。
ロゼの《大切》は《記憶》と《空間》。
僕の《大切》は…きっと、この先見つかる。
クロウが教えてくれたことを心に刻みつけ、僕は改めて使い魔としての決心をした。
「ロゼ!僕、忘れないから」
「何を?」
「《大切なもの》を!」
「…そう。焦っても見つからないわよ?」
「どうすればいい?」
「そうね…とりあえず、紅茶でも淹れて。あと、敬語」
この頃の僕は、《大切なもの》を見つけることは簡単だと思っていた。
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