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とある晴れた日。
「ニコラウス。どこにいるの?」
「ここに」
相変わらず薄暗い店内には、二つの声しか響かない。
女性は青年の姿を認めると「喉が乾いたわ」と一言だけ用件を伝えた。
「かしこまりました」
「あと、店内の掃除もやって」
「はい」
青年は手際よく紅茶の用意をし、女性のもとへ運んだ。
「ここへ来て、随分と経ちますね」
「そうね。あなたはあれ以来変わったわ。すごい勢いで知識を吸収していくんだもの」
「クロウと約束しましたから。《大切》なものを守ると…」
「ふーん。あなたの《大切》、見つかったのね?何かしら?」
「秘密です」
青年は優しく微笑み、それ以上何も言わなかった。
女性も追求しなかった。
「掃除してきます」
一言だけ言い残すと、青年は一人、薄暗い店内へ向かい、見渡した。
そして、商品を並べてある棚を一撫でした。
“クロウ…。僕の《大切》、見つかりました”
どこにいるかも分からない友人に、青年は語りかけた。
“僕の《大切》は《ロゼの目的》です。彼女のためなら、何でも捧げる覚悟です。…あなたの主への想いも、今なら理解できます”
青年はきっと知らない。
今、どんな表情をしているか。
どんなに優しそうな…暖かな表情でいるか、を…―。
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