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俺は瞬きをすることも出来ず、視線を動かすことも出来ず、男と、眼前のナイフの刃を見つめた。
俺の眼球は、俺の意思に反して、潤いを求めて涙を溜め込んだ。
「怖いのか…?ハァハァ…っ、すぐに刺してやるからな…」
巨漢はそう言って俺にナイフを突き立てようと力を入れた。俺も終わりだと思ったのだが、ナイフは動かない。きっと巨漢は俺の恐怖心を煽って楽しんでいるんだと思った。だが、
「…っぐ…っ…ぐるじ…ぃっ」
巨漢はいきなり宙に浮いた。それはあり得ない光景だった…。
男は推定200kgは軽く越える巨漢なのに、その巨漢が宙を泳いでいるのだ。
「…ぁがっ、おばぁえは…っ」
巨漢は目を見開き、何もない空間を見つめて怯えたようにひぃひぃと喚く。
「おばぁえは…っ殺しだぁ…っぁず…っ」
巨漢は途切れ途切れにそう言うと、再び抵抗を始めた。だが、その抵抗もすぐになくなり、そのまま動かなくなった。
カチャンッ
顔をかすって、俺の眼球を抉ろうとしていたナイフが床に落ちてきた。
そして、だらしなく浮いていた男も続いて落ちてきた。
俺は恐る恐る起き上がると、そのまま階段に向かって足を引き摺りながら走り去った。
階段を昇る時、チラッと少女の姿が見えた気がした。
だが、俺は、地下に戻る気にはなれずそのまま階段をかけあがった。
地下室にいたのは少女じゃない。少女は図書室で…俺はそう言い聞かせて、痛む足を引き摺りながら階段を昇る。
図書室へ。
図書室へ。
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