エピソード:1

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再び放課後の仕事で図書室にいる。俺は今日は図書室を閉めようとはしなかった。代わりに、窓際の席に腰かけた。   「ねぇ」   俺は先に本を読んでいた少女に声をかけた。 少女はチラリと俺に顔を向けただけで、すぐに本に視線を戻す。   俺はなんだか腹がたって、少女から本をとりあげた。 すると、少女は驚いたような表情を見せたが、すぐに席をたって新たな本を持ってくる。そして席に着くと新たに本を読み始めた。   俺はその本もとりあげてみる。すると、少女は再び新たに本も持ってきて、読み始めた。俺は、再びその本をとりあげて…と何度もその意味もない行動を繰り返した。   すると、少女が初めて口を開く。   「一体何がしたいの?」   少女は、俺を睨み付けながらそう言った。   「いや…、その…」   俺は、言葉を発することも出来ずに黙ってしまった。少女と初めて向き合って、俺は少女のことがずっと気になっていたのだと思い知らされた。   「…ごめん」   俺が謝ると、少女は柔らかい笑みを浮かべて「いいよ」と言うと、俺がさっき彼女から奪った本をパラパラと捲り、再び読み始めた。   その白くて長い指が、本を捲るのを眺めながら、俺は再びウトウトしていた。         そして、気が付くとそこには少女もいないし、辺りも真っ暗だった。
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