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生きることもつまらないが、自ら死を選ぶことが愚かしいことだと僕は知っているはずで、長い感傷に浸ってしまった自分を笑い、身を翻す。
「あっ、もうちょっとそのまま」
「えっ?」
突然聞こえたのは、低めだけど澄んだ、女の人の声。それは僕が、フェンスに手を掛けたときだった。
一瞬止まってはみたものの、そのままと言われても困ってしまう。自分がしていることの滑稽さは、自分が一番よく分かっている。
こんな、まるでドラマのような青春の1ページを演じてしまった僕を、一体誰が辱めようとしているのか。
「もう。そのままって言ったのに」
完全に振り向いて、まず目に飛び込んだのはカメラだった。こちらにレンズを向けた女の人が、針金の格子の向こうに立っている。
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