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瑠璃が近付いてきたとき、その身体からはミントの香りがした。爽やかで甘い芳香が、風に乗る。すっと突き出された手に、僕はすごすごと手を伸ばした。
「そんなに緊張しなくてもいいよ」
彼女がまた笑う。
「緊張なんて」
「してるじゃない」
「だから、してな」
「仲良くなれる、おまじない」
僕が言い終わる前に、ミントの香りが口の中に広がった。
「私、このイルカのやつが一番好きなの」
唐突に唇の隙間から滑りこんだ、1枚のガム。
瑠璃は笑っていた。
心まで透けるように、無邪気に笑う君。一瞬、唇に触れたひんやりと冷たい指先。その心地の良い温度は、ミントの爽やかさを思わせた。
母親以外の異性の手をこんなにまともに握ったのは初めてで、本当は少しだけ緊張した。
「瑠璃……」
呟いて、ミントが口に広がった。
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