Sky Blue

13/13
前へ
/160ページ
次へ
     瑠璃が近付いてきたとき、その身体からはミントの香りがした。爽やかで甘い芳香が、風に乗る。すっと突き出された手に、僕はすごすごと手を伸ばした。 「そんなに緊張しなくてもいいよ」  彼女がまた笑う。 「緊張なんて」 「してるじゃない」 「だから、してな」 「仲良くなれる、おまじない」  僕が言い終わる前に、ミントの香りが口の中に広がった。 「私、このイルカのやつが一番好きなの」  唐突に唇の隙間から滑りこんだ、1枚のガム。  瑠璃は笑っていた。  心まで透けるように、無邪気に笑う君。一瞬、唇に触れたひんやりと冷たい指先。その心地の良い温度は、ミントの爽やかさを思わせた。  母親以外の異性の手をこんなにまともに握ったのは初めてで、本当は少しだけ緊張した。 「瑠璃……」  呟いて、ミントが口に広がった。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加