MINT BLUE

2/16
前へ
/160ページ
次へ
「母さん、もういいって」 僕は苛々していた。 ベッドの右手、サイドテーブルの上に山積みにされたコミック。結花(ゆか)の置いていった、今、人気の少年漫画だ。 「退屈でしょ? これ超面白いから読みなよ」 嬉しそうに言って、結花がそこにコミックを置いていったのは昨日のことだった。 窓に掛かる白いレースカーテンをするりと抜ける陽光。 光に透けて揺れる、肩にやっと触れる毛先と、小さな頭の上に乗っかった天使の輪。色白な肌に薄赤いふっくらとした頬。童顔で背も低い結花は黙っていれば、可愛らしい天使に見えなくもなかった。 結花はついこの間まで、セミロングだった。 ばっさりと髪を切った辺り、誰かに失恋でもしたのだろうか? 「別に藍人が例のあの子のこと可愛いって言ってたからじゃないよ!?」 あの子、とは、隣のクラスの女子のこと。結花に「隣のクラスのあの子、可愛いよね」なんて言われて、「まあ確かに可愛いね」なんて返事したことを、結花はどうしてそんなに覚えているのか、僕には分からなかった。「まあタイプじゃないけどね」なんてことは、十人並みの顔をした僕には僭越すぎて言えなかった。 結花と僕は、保育園からの腐れ縁だ。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加