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「母さん、もういいって」
僕は苛々していた。
ベッドの右手、サイドテーブルの上に山積みにされたコミック。結花(ゆか)の置いていった、今、人気の少年漫画だ。
「退屈でしょ? これ超面白いから読みなよ」
嬉しそうに言って、結花がそこにコミックを置いていったのは昨日のことだった。
窓に掛かる白いレースカーテンをするりと抜ける陽光。
光に透けて揺れる、肩にやっと触れる毛先と、小さな頭の上に乗っかった天使の輪。色白な肌に薄赤いふっくらとした頬。童顔で背も低い結花は黙っていれば、可愛らしい天使に見えなくもなかった。
結花はついこの間まで、セミロングだった。
ばっさりと髪を切った辺り、誰かに失恋でもしたのだろうか?
「別に藍人が例のあの子のこと可愛いって言ってたからじゃないよ!?」
あの子、とは、隣のクラスの女子のこと。結花に「隣のクラスのあの子、可愛いよね」なんて言われて、「まあ確かに可愛いね」なんて返事したことを、結花はどうしてそんなに覚えているのか、僕には分からなかった。「まあタイプじゃないけどね」なんてことは、十人並みの顔をした僕には僭越すぎて言えなかった。
結花と僕は、保育園からの腐れ縁だ。
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