MINT BLUE

3/16
前へ
/160ページ
次へ
「今年はボブが流行るって、雑誌に書いてあったから」と結花は語気を強くして言った。 分かったから、と思いながらもう一度鼻で笑ってしまって、随分前に「それ良くないよ?」なんて結花に言われたことを思い出した。 悪気もなく、小馬鹿にしたように鼻で笑ってしまうのらは僕の悪い癖で、それはなかなか直らなかった。 「ねぇ、前から気になってたんだけど。藍人ってさ、どうして自分のこと〈僕〉って言うの?」 黒目がちの結花の瞳が、真っ直ぐ僕を見る。 「〈僕〉って、そんなに変?」と聞いたのはもちろん、僕。 「変だよ。普通〈俺〉じゃない? だってそんなの小さい頃しか使わないよ」 結花はそう言いながら、浅くえくぼを作り笑っていた。 僕は気付いていなかった。 いつからか僕は親の前でいい子ぶって、本当の自分を隠していた。 そんな自分にさえ少し、麻痺していた。 此処は、僕には窮屈過ぎる。 自分のことを〈僕〉と言うことで、僕はそんな自分を誤魔化していた。 苦しいのも、当然だった。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加