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「今年はボブが流行るって、雑誌に書いてあったから」と結花は語気を強くして言った。
分かったから、と思いながらもう一度鼻で笑ってしまって、随分前に「それ良くないよ?」なんて結花に言われたことを思い出した。
悪気もなく、小馬鹿にしたように鼻で笑ってしまうのらは僕の悪い癖で、それはなかなか直らなかった。
「ねぇ、前から気になってたんだけど。藍人ってさ、どうして自分のこと〈僕〉って言うの?」
黒目がちの結花の瞳が、真っ直ぐ僕を見る。
「〈僕〉って、そんなに変?」と聞いたのはもちろん、僕。
「変だよ。普通〈俺〉じゃない? だってそんなの小さい頃しか使わないよ」
結花はそう言いながら、浅くえくぼを作り笑っていた。
僕は気付いていなかった。
いつからか僕は親の前でいい子ぶって、本当の自分を隠していた。
そんな自分にさえ少し、麻痺していた。
此処は、僕には窮屈過ぎる。
自分のことを〈僕〉と言うことで、僕はそんな自分を誤魔化していた。
苦しいのも、当然だった。
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