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でも、母が驚くのも無理はなかった。従順過ぎる息子に今まで何の疑いも抱かなかったのだろうから。
「ごめん。後で僕が自分でやるから」
苦しい。浜辺に打ち上げられた魚もこんなに苦しいんだろうか。僕の時間軸では永遠にも思える沈黙のあと、母は「花瓶の水を換えて来るわね」と言って病室を後にした。
動揺しているのか、母は僕の顔をよくは見なかった。
「花なんていいから帰れよ」
母のいなくなった病室につぶやく。
もちろん花が嫌いな訳じゃない。母の干渉が嫌だった。
この部屋は真っ白で、それだけで気が滅入った。
実際にはかなり黄ばんだ天井も古くてくすんだ壁の色も、全てを包み消し去る光の前には完敗だった。
引き出し付きのサイドテーブルの上には、大好きなコカ・コーラの真っ赤な空き缶があるけれど、今、体を起こしている僕の視界にそれは映らない。
ただひたすら白くて、白くて。だけど僕の心は何処までもグレーだった。黒でもなく、白でもなく、そのどっち付かずな感じがますます鬱陶しかった。グレーを許せない人間は、病気になりやすいと何かの本に書いてあった。
「こんにちは」
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