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「あ、いえ、駄目って訳じゃ」
「そう。なら、ヨシ」
僕は、犬か?
言葉を途中で遮られたあたり、僕は鳴くことも許されないらしい。
個室には、僕と瑠璃だけ。
沈みかけた体は、今、少しだけ浮上したような気がした。
今日も、清廉な空が窓の外に広がっている。
屋上で初めて会った日、瑠璃は自分を写真家だと語った。
「まだ駆け出しだけどね」
アルバイトをいくつも掛け持ちしてお金を貯めて、時には旅に出るらしい。
「私、もう一度行きたい国があるんだ」
何処? って聞いた。
秘密、って国は無い。
なかなか海外になんて行けないけれど、そこは特別、気に入ったと言っていた。
教えてくれたって、いいと思う。
瑠璃は十九才。中学生の僕から見ると、凄く大人。
その割に、こんなに親しみを覚えるのは、どうしてなんだろう?
僕から見ても、瑠璃は黙っているとかなり大人っぽい。
ほんのり茶色い髪は胸まであり、フェイスラインを縁取る長い前髪は額の真ん中で分けられている。
笑ったときに見える八重歯だけが十代を主張している気がした。
年の差――それは瑠璃が感じさせないようにしているんだろうか?
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